ラッパ屋「2.8次元」―演劇酔狂の、演劇酔狂による、演劇酔狂のための作品

演劇好きの中でも観巧者たちからの評判が高い「2.8次元」。観てきた。

笑ったー!ミュージカル、2.5次元、新劇、それぞれの「あるあるネタ」や「いかにもネタ」で笑わせつつ、しかし貶めず、異分子どうしの心情や行動原理をきちんと描き、少しの苦味もむしろ爽やかな余韻となってラストに着地する。丁寧な作劇が大好きだった。単なる異文化disではなく、「演劇」に関わる者、その新しい動きとして共通点や相互作用の妙を見出していくような前向きな戯曲が気持ちいい。

演劇という酔狂に取り憑かれた観客と役者の一体感も楽しくて、演劇業界の用語や動向が分かる者には抱腹絶倒のおもしろさ。「平田オ●ザかよ!」で爆笑する客席の安心感がすごい(笑)。

ミュージカル界からきた女優(「Emmy」という名作ミュージカルで主演をつとめたという設定。笑)の、くっきりとデフォルメされたキャラクターが今作の面白さの軸をなしていたのはもちろん、その歌唱力で「ミュージカル」の空気感をしっかりと立ち上げていたのが素晴らしかった。

クライマックスの劇中劇(2.5次元風)の通し稽古が行われる中、突然の父子劇へと変わっていく中で「雑草座」座長の芝居によって一瞬で涙を誘う空間が立ち上がるのもさすがだった。この座長、冒頭から「めんどくさい演劇論」を語ってしまう、古き良き新劇の人という感じなのだが、「心の機微を描く」芝居をやらせたらやっぱり実力を見せつけられてしまう、という展開(いうなれば新劇俳優の面目躍如)がまた面白い。

ラストで、偶然にも素人から役者に起用されたおじさんに「(劇団員から今後もつづけたら?と言われて)いや、たまにやるから面白いんだと思う。これを人生にはできない」(うろ覚え)と言わせるのが良かったなぁ。それに続く、劇団員の「どこに違いがあるのかしら、人生にしてしまう者とそうでない者と…」(うろ覚え)って台詞も良かった。

劇団を長く率いてきた座長の「(稽古場のビルの周りの再開発工事?を指して)もうあのビルは2回も変わったよ。ここだけが変わらない」(うろ覚え)というのも当然ながら演劇界を取り巻く状況を暗示しているのだろう。戦後日本の現代演劇界の変化に思いを馳せた。この座長の台詞には深く印象に残るものが多かった。

結成35周年だという劇団の、酸いも甘いも噛み分けた懐の深さが戯曲にも演出にも表れていて、今後も見続けたいと思わされる作品でした。続けてくれてありがとうございます(誰目線か謎ですが)。