観劇記録「ゲゲゲの先生」

「ゲゲゲの先生」面白かった。水木作品のドライで少しとぼけた空気感が舞台上に立ち上がっていて、役者がいずれもハマり役。中でも、佐々木蔵之介さん、舞台での演技を初めて拝見したけれど、主役の半妖半人・根津の深刻ぶらないけれど決して拭えない悲哀の演技の巧みさ。実に魅力的な役者さんだなぁ。

妖怪×水木しげるの生き様×SFをうまく融合させて、「人ではないもの」とは何か、そして都市と地方/文明と自然/出産や育児をめぐる現在の社会状況を暗喩しながら、決して深刻ぶらず要所では笑わせて、悲哀を悲哀のまま受け止めて軽やかに描く、オリジナリティある舞台でした。

個人的には「都市/田舎」と出生率をめぐる物語の設定や展開が皮肉に満ちていて面白くて、これは地方都市である北九州で観劇できてよかったなぁと思ったな。物理的にすぐ近くにある過疎の町、そしてそこで生きる「田舎」の人々の生活の陰と陽の両面を肌で感じながら観ることができた。

だけどもちろん単なる「田舎」の話でもなくて、全体を貫くのは、妖怪をモチーフとしながら「(まともな)人間」または「(まともな)生」って何?という、まさに水木作品と前川作品が通奏低音として読者/観客に常に突き付ける、普遍的で痛切なテーマ。

と書くと、「難しいお芝居なのかな?」と思われてしまうかもしれないけどそういうことは全くなくて、演劇的暗喩に慣れていない観客にも上演時間2時間を飽きさせない工夫が随所にあり、押し付けがましくなく笑えるシーンがバランスよく配されていたのも、インタビューで「人の評価を気にしますよ」と言っていた前川さんらしいような気がした。そのぶん、暗喩や批評的な部分の鋭さはずいぶん後景へ退いたけれど、辛さや悲しみを前面には出さない水木しげるさんと水木作品をモチーフにしているなら、それもまたありだろうと思った。

佐々木蔵之介さんの良さに加えて、松雪泰子さんの冷涼で妖しい美しさ、白石加代子さんの老婆から妖怪への「変化(へんげ)」のうまさ(これはもうお家芸ですね)、そして普段イキウメほか小劇場で目にする達者な方々がきっちり脇を固めて穴のない布陣。

障子風の衝立(可動式)を使った装置・場面転換も洗練されていて(暗転した記憶がないけど1回か2回は暗転したかな?)、転換厨にも嬉しい作り。照明もセンス良かったな。音響は何といっても、パーカッションの生演奏が素晴らしく贅沢で効果的。大満足の舞台でした。

映像化しても面白そうだけど、「見立て」や「時系列の交錯」をあえて使える演劇だからこそ立ち上がった雰囲気もあり、映像にしたら全く別のものになるだろうなぁと思った。いずれにしても、前川さんの作るものは大体おもしろい。今後も追っていきたい劇作家です。あと、佐々木蔵之介さんの芝居もまた観たいな。

 

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もうすぐクリスマスですね。リバーウォーク前のイルミネーションも美しかった。

「ナイツ・テイル」感想――いち演劇ファンの視点から

ナイツ・テイルの感想、ツイッターだけだと流れていっちゃうのでこちらに記録。

 

演出について――精緻かつ大胆な空間使いと「見立て」の演劇的興奮

大変に面白かった!ジョン・ケアードの大胆だけどさりげない演出、特に回り舞台(盆)の使い方の巧さに唸らされました。舞台上に無駄な空間と時間が一切ない、演劇的興奮に満ちた2時間半。演劇ファン必見ですね。立ち会えて良かった。

舞台の空間の上も奥も手前も脇も存分に使う、空間の使い方が巧い演出が大好きなので、それが巧かった蜷川舞台をみた時のような興奮があった。そんな個人的な感慨を除いても、和楽器や東洋的パフォーミングアーツを取り入れたそこかしこにミュージカル・演劇の最近の系譜が感じられる作品。

あと、神話モチーフの芝居を中央の盆で演じて、他キャストが周りでみているっていう構図が大好きなんだけど、同じ構図で印象的だった遊眠社の「半神」を思い出した。「昔々、こんな話があったんだよ…」ってお話を聞かせてる劇中劇の構造。好き。

そして、回り舞台と木や花など、装置・小道具使いの巧さ。道具やセットの「見立て」が変わるのも、演劇にしかできない面白さで興奮する。木の葉の反射を利用した光の演出が美しかった。やや抽象的な道具・セットを生かす演出が大変に好み。

この、木や花の配列+回り舞台+役者の動線が各シーン計算され尽くしていたのも気持ちよかったな。暗転しない舞台は見慣れてるけど、動きがあるから舞台の暗いところで行われる転換が気にならない。「手品みたい!」と思わせてくれる演劇的興奮とはこういうこと。

「魅せる転換」がもはや普通の演劇では主流というか最低限クリアすべきレベルになってる気がしてるけど(いわゆる暗転は、敢えて暗転の効果を狙った1-2回しか使わない)、ジャニーズの方が出ている舞台ではこのあたりに物足りなさを感じる作品が続いたので、その点でも個人的に大変ありがたかった。

回り舞台が回ってるときと止まるタイミング、単なる転換上の都合じゃなく、物語や台詞の意味、登場人物の関係性とかと連動してたらすごいな(舞台上の物理的な空間と物語内容との連動)、と思ったけど初見では観察しきれなかったので、そこ重視でもう一回は観たかった。演出のために2回観たいと思った作品ひさしぶりかも。転換厨なもので。

 

役者について――才能の結集と調和、それはかくも美しい

で、ナイツテイルの演出ばかり言及してるけど、鳴り物入りの主演2人はどうだったかというと、いや~素晴らしかったです。そして、主演を支えるキャスト全員の技術の高さ!チケット、本当にこのお値段で良いのでしょうか。安い。

私は堂本光一さんも井上芳雄さんも、それぞれの分野から新たな境地に挑戦する舞台人なので個人的に推しているのだが、今日のナイツテイルをみてやはり敬意と好感を覚えた。

お二人の華や話題性につりあう演出ってこの水準なんだなぁと思ったというか、いやまぁ普通に考えたら逆で、世界のジョン・ケアードにつりあうキャストだったっていうべきなんだけど。全ての意味で調和した美しい舞台だったなぁと。

ナイツテイル観劇後に「堂本光一さんすごいなぁ」と口をついて出てしまって、観劇後その理由を考えてたんだけど、重厚感だなぁ。小柄で涼しげなのに芝居や歌や佇まいに重厚感がある。それがナイツテイルの世界観との調和、他のミュージカル俳優との調和を生んでいたのだなと思います。

エンドレスショックで舞台人としての堂本光一さんを初めてみた時、その圧倒的な華に驚くと同時に、華だけに頼らない芝居や歌への姿勢に心打たれたんだけど、その姿勢が「地に足ついた」舞台人としての厚みある佇まいを育てて、今回のナイツテイルでの調和に繋がったのかなぁなどと思いました。

ミュージカル経験豊富な井上芳雄さんとW主演やって調和するジャニーズ事務所の方って、華という意味でも舞台人としての格という意味でも、堂本光一さん以外いない(今のところ)ということを証明したのでは。もちろん、ジャニーズ舞台班として優れた方が少なくないのは知っていますが、それでも尚。

正直、ジャニーズの人を主演に置く舞台ってその人たちを立てる演出が見え見えでしらけることがあって、そういうのを私は「ジャニ舞台」(アイドル舞台)と呼んでるふしがあるんだけど、それが全然なくて質の高いレベルで成立してたから、ナイツ・テイル(と堂本光一さん)はすごいな~と思ったんだよね。

そして井上芳雄さんについて。井上芳雄さんのことは、何年か前にケラリーノ・サンドロヴィッチ演出の昭和三部作のひとつ「陥没」で主演していた時に初めて生で拝見して、絶妙な掛け合いが要求されるケラさんのストレートプレイを好演していたのが印象に残り、それ以来ほんのりと推している。

「陥没」の時は、「わぁ、ミュージカル界のプリンスがストプレ界に来てくれた~」というだけで好感を持ったのと(ちょろい笑)、芸達者揃いの役者の中、絶妙の間合いや緩急が求められる役どころをうまく演じていたのに加え、どこか人柄の良さのようなものが滲み出ていたのが良かった*1

ちなみに井上芳雄さんの作品は、「陥没」以降だと、「グレート・ギャッツビー」と「1984」しか観られてないんだけど、上品なので「色の濃さ」のようなものが求められる役柄よりは、「陥没」で演じていた育ちの良いボンボンとか、今回のナイツ・テイルの王子様のような役柄がハマり役なのだなぁと今さらながら思いました。

今回の主演お二人で、来年以降もぜひ再演してほしいなぁ。わがままですけど。

 

ちょっと戸惑いを覚えたところ(些末なことだよ)

・ラストのナンバーはキャストさんが明らかに手拍子を促してるのに客席が静かすぎてちょっと残念だったな。やりかけたけど誰もしてないので何となく遠慮してしまった。あそこは乗ってしまわないと、逆に気になっちゃう。

・最後に降りてくる女神像顔面が思ったより具象的で、インパクトの強さに目が釘付けになってラストのハッピーなナンバーに乗り切れなかったことは否めない笑。女神像は抽象的or布で隠したくなっちゃったけど、これは日本人的なセンスなのかも。

 

まとめ――間違いなく「私的ベストステージ2018」の1本

とはいえ、戸惑いを覚えたところはそれくらいで、全体からすれば些細なこと。「ほんといいものみたなぁ…!」が演劇ファンとしての率直な感想でした。半年分くらいの「いい舞台をみた感」があったナイツ・テイル。爽やかな気持ちで劇場を後にしました。いい舞台は私に「生きててよかったなぁ」って(大げさでなく)思わせてくれる。ありがたいことです。

まだ2018年はあと4か月ありますけど、ナイツ・テイルは間違いなく「私的ベストステージ2018」の一本になることでしょう。は~、いいものみた~!

*1:なお、「陥没」で小池栄子さん(うまかった!)演じる婚約者の尻に敷かれる可愛い役をやっていらしたのが井上さんとの最初の出会いだったこともあり、妙な親近感から、私の中では勝手に「芳雄ちゃん」と呼んでいる。が、今回帝劇の物販でそのプリンスぶりを目の当たりにして、馴れ馴れしく「ちゃん」呼びしていたことは反省している。ただ今後も「芳雄ちゃん」と呼んでしまうかもしれないのでファンの方はご海容いただければ幸甚です