「Le Pere 父」感想

記録しておこうと思ったのに忘れていた「Le Pere」の感想。今更だけど書く。

評判通り素晴らしかった。配役・セットの変化、リフレインを巧みに使って、認知機能に狂いを持つ主人公が体験する日々の世界の混乱と滑稽さを、観客に直接体験させる仕掛けは演劇ならではの面白さ。可笑しみと哀しみを表現する橋爪功さん若村麻由美さんの上質な演技に感服。

この世は舞台、人は皆役者、というあの有名な台詞を思い出す作品だったな。人生はまるで、自分の役どころもストーリーも上演時間も知らされずに、幕が上がってしまった舞台のようなもの。本心はまごつきながらも知ってるふりして演じきるしかない。大人になれば少しは慣れて、器用に演じられるようになるけれど。

認知機能に狂いが生じるというのは、こうしてようやく慣れてきた筈の「お約束」が少しずつ壊れて、まるで「この部屋は私の部屋」「この女優は私の娘」という「舞台上のお約束」が暗転が明けるたびに微妙に変わるシーンをアドリブで乗り切らなきゃならない、そんな毎日を生きるようなものなのだなぁと。