BACKBEAT感想―「熱狂」の波が寄せる、海辺での別れと永遠の喪失について

BACKBEATみてきた。最高だった。

観劇前の数週間、仕事のことで頭いっぱいで寝ても覚めても仕事のことが頭を離れなくて困ったもんだなと思っていたのだけれど、BACKBEATの1幕冒頭で出演者が軽くダンスするシーンであまりのかっこよさ(男くささと色気)に頭パーンなって仕事のこと全部忘れられたし相当リフレッシュしたから、忙しくて疲れた大人の女のひとは全員BACKBEATみたらいいと思う。

女性ファンへのサービスというかウケを相当狙って作ってるところが潔くて良かった。出演者のビジュアルや設定(バンド、革ジャン、ソフトリーゼント、煙草、マッシュヘア、スーツ)からして、これ嫌いな女の人そうはいない。客席はほぼ女性ファンだというのは企画の時点で分かっていただろうから、徹底してそこにフォーカスする潔さ。

でも単に観客を「はぁ~気持ちよかった~♡かっこよかった~♡」で終わらせないところに演劇人魂を感じて、私は好きだった。1幕で、ファンの女に道で突然叫ばれたエピソードを語るシーンで、メンバーに「あれはオルガスムスの一種らしいぜ」みたいな台詞を言わせるのしびれたなー。別の舞台ならともかくジャニーズファンだらけの客席を前にして、出演者がこの台詞を吐くロックな構図にしびれた。

ちなみに、ビートルズについては、いわゆる「赤盤」「青盤」をもってたってくらいの人です。先日、映画「EIGHT DAYS A WEEK」をみてとても面白かった。

 

以下、感想。ネタバレあります。

1 全体について

1)露悪と熱狂の1幕

新しい音楽で上を目指す人たちの色々なレベルの欲望(金や性、表現への衝動)がないまぜになった蠢きを、売れる商品へ変えていく「ビジネス」の型に彼ら自身が歩み出していくまでの物語。「原石」であり、ありのままかのように演出されながらも「作り上げられた虚像」であることから逃れられない存在としてのアイドル(ポップスター)に「熱狂」するファンに、その残酷さを突き付ける物語でもある。

1幕では、創世記ビートルズが「いかに女を熱狂させるだけの才能を持った原石だったか」がこれでもかとばかりに描かれるんだけど、出演者のキャラクターも台詞も音楽もダンスも含め、その説得力がすごい。心からキャーキャー言いたくなる。このバンドに熱狂したくなる。

しかもそこに、彼らとファンの性的欲望がやや露悪的なまでに描かれるのも(裏でフェ*チオされるシーンとか、ジョージが童貞喪失した後のくだりとか)、アイドルの出る舞台として相当に攻めている。単に女と絡むとか半裸になるという目に見えるインパクトのみならず、「客とそれをしている」という設定も込みで。ドラッグも煙草も酒もセックスも汚物も全部あるのだが、役者がかっこよくてきれいだとなんかものすごく見てて気持ちいいものになってしまう。こわい。イケメンこわい。

*1:むしろ商品イメージを損なわない範囲において、「悲劇」は熱狂にガソリンを注ぐ付加価値であり消費の対象ですらある。ポップスターとはそのような存在だ。ジョンはこの舞台をみて、どのように思うだろうか。笑うかもしれない。すべてのできごとを織り込み済みで道を選んだのだと思いたい。

*2:事前にラブシーンがあることを知らされていなかったこともあってか、戸塚さんのファンの方の中には辛くて見ていられないという人も少なくないらしい。スチュアート役、戸塚さんがとても戸塚さんらしくしてる役だからこそラブシーンの生々しさが凄まじいのだろうな。 特に、運命の人に出会ってからのラブシーンがほんと愛に溢れていてこれは戸塚さんにしか出せない味だなと思いながら観ていた。全身全霊で愛するスチュアートこと戸塚さん。A.B.C-Zのメンバーで濃いめのラブシーンがあったといえばコインロッカーベイビーズだが、河合キクの場合は対照的に、どことなく恐々と遠慮がちに相手に触れる感じがあり、触れ合いながらも醒めた一枚の膜があるような脆さがあり、だからこそ耽美で虚構的なラブシーンだったのかなぁと思い返す。 役柄と役者によってラブシーンの印象がこんなにも違うのが面白い。

*3:2回目の観劇でつくづく思ったけれど、戸塚スチュアートが病のためにアストリッドを殴ってしまうシーンが特に良い。嫉妬するシーンも殴るシーンも本当に怖いし、そしてそれをしてしまった自分に驚き傷ついている芝居が真に迫っていて、どれほど辛いだろうことが伝わってきて私は泣いた。アストリッドの、殴られた時の心の痛みも。